Gamanda Madada written by ハマゾノリョウジ


昔の話。
 

あれは今から15年くらい前の話かな。
 

中学生だった僕は、当時のブームで塾に通ってた。
 

通ってた塾の名は「登竜門」
 

今、鹿児島でも同じ名前のMCバトルイベントがあるが、意味的には簡単に言うと試験とかを突破する的なものだと思ってる。
 

その塾は超スパルタ塾で、課題が出来ないと帰れない。
 

基礎と言う基礎をガッチリ叩き込まれるんだ。
 

今となれば非常に素晴らしい塾だと思う。
 
 

学校が終わって夜の19時くらいから3時間、そのスパルタ塾が開講される。
 

塾に向かう18時半頃。
 

僕は若干の尿意を催した。
 

尿意と言っても「トイレに行けばもしかしたら出るかな」ってな程度のものだったと記憶している。
 
 

塾に着いた18時50分。
 

その頃には既に僕の膀胱はパンパンのレッドゾーンに突入していた。
 

そんな中、僕はある決意をした。
 

塾が終わるまでの3時間
 
 

この尿意を我慢する
 

 

当時、自分がなぜにこの様な奇行に走ることを決意したのか、今となっては全くもって理解できないが、その時の彼の眼差しは真剣だったと信じてほしい。
 

その日は確か、スパルタ塾長が半分、あと一人、優しさハミ出まくりのゲンちゃんという塾講師の方が半分授業をするという流れだった。
 

前半、スパルタ塾長はいつものごとくビシバシとシゴいてくる。
 

だがここに来るまでに既に膀胱がレッドゾーンだった僕はそれどころではない。
 

こちとら塾開始10分で冷や汗をかきながら小便を我慢しておるのだ。
 

右手にはシャーペンを握る。
 

表向きは勉強スタイルだが、左手は股に挟み、足の指を頻りにクロスさせ、奥歯を擦り合わせる。
 

これが裏の顔だ。
 

もはや僕の脳には何やらの公式がどうのなど入り込む余地などない。
 
 

ただ、トイレに行きたい
 
 

ただただ、小便がしたい

 
 
 

前半のスパルタ塾長の授業が終わり、10分の休憩に入る。
 

この休憩とて、今日の僕にとっては身体を休める時間ではないのだ。
 

下半身との壮絶なバトルの時間である。
 

むしろ授業の様な、なにか他に考えるものを与えられている方がよっぽど気が紛れていい。
 

何もないこの10分の休憩など、その日の僕にとってはまさに地獄。
 

もう、小便のこと以外何も考えられない。
 
 

小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便小便
 

飲み込まれそうだ
 

いや、飲み込むとか、なんかそういう小便に繋がる要素のあるものでさえ、考えると膀胱の膨らまし粉となって僕を追い詰めてしまう。
 

余談だが、僕はこの日、誰にも「小便を我慢する」など公言しておらず、あくまで一人でこっそりと孤独に戦っているのだ。
 

そんな中、休憩中に隣の男がトイレに行くと席を立った。
 

非道
 

こんなにも非道なことができるものかね人間ってのは
  
 

我慢だ、まだだ。
 

あと1時間20分。
 

耐えてやる
 

 
 
 

後半は優しさ溢るるゲンちゃんの授業だ。
 

普段ならボーナスステージなので彼の授業は睡眠をとることになっているが、この日ばかりは寝る事など自殺行為。
 

目ん玉をギンギンに見開いてバキバキのドンギマリである。
 

開始から2時間が過ぎた。
 

気が遠くなりそうだ
 

もうなんか腹も痛い
 

数学や英語の問題で気を紛らわすなんて事は出来なくなっていた。
 

頭にあるのは、「小便」「トイレ」「放尿」、この手のワードのみ
 

会話も出来ない
 

会話なんてしてしまったら「小便がしたいです」と開口一番で言ってしまいそうで。
 

小便が涙となって目から出て来て欲しいとさえ思った。
 

そうすればこの苦しみから、少しでも解放されるのではないか。
 

今なら小便にまつわる妄想が無限に出て来る。
 

もしかしたら何かを生み出すクリエイターはこういう状況を自分で作り出しているのではないか
 

我慢だ
 

もう少しだ
 

自分で決めた事だ
 

我慢するって
 

ここまで自分と向き合い、そして戦うことがあるだろうか
 

僕は3時間、耐え抜いた

 
耐え抜いたが、立てない。
 

椅子に座っている状態で自分なりのベスポジを構築してしまったせいで、立ち上がったら全てが水の泡になりそうで立てない。
 

立ち上がり方が、わからない。
 

ゆっくり、それはまるで敵地に侵入したアサシンの如く、体制を整えて立ち上がる。
 

念願のトイレ a.k.a 聖地だ
 

どれだけこの時を。。。。
 

止まらない
 

もういい
 

止まらなくてもいい
 

3時間、お前に会いたかった
 

でももう終わりだ
 

全部出て行ってくれ
 

我慢だ、まだだ!と自分を極限まで追い込んだものにしかわからぬこの極地
 

そこで僕はなにを得たのか
 

それはその極地に行ったものにかしかわからない
 

ただ、僕には未だにわからない。
 
 
 
                             written by ハマゾノリョウジ

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