少年よ、ズボンに挟め -中編- written by ハマゾノリョウジ


----

足早になりがちな己の足に規制をかけていつも通りの雰囲気を精一杯に作って歩く

 

親の待つ山形屋に着くまでにこのBPM180の胸の鼓動を平常時に戻し、いつも通りのハマゾノリョウジになっていないといけない
 
 

そう思えば思うほど、よそよそしいバイブスは外へと漏れてしまう
 
 

今考えてみるとあまりに重荷だ

 

彼の腹部にはズボンとお腹で挟まれたアダルトビデオ
 
 

それを誰にもバレず家まで隠密に搬送するという運び屋業
 
 

その彼は小学生
 
 
 
 

誰も思わないだろう
 

昼間天文館を歩いている小学生の腹にアダルトビデオが隠されているだなんて
 
 
 

小学生のハマゾノ少年はこの任務を確実に遂行しなければならない
 
 

小学生の時点でアダルトビデオを購入したことが親にバレるということは、大人になって電車内でウンコを漏らしたことが周囲にバレることに匹敵する程の社会的死が待っている

 
 

そんなミッションインポッシブルな状況で親の待つ山形屋へ到着した
 
 

 
少年の何食わぬ顔も板についてきた
 
  

腹に挟んだアダルトビデオ分の腹を減っこませて妙な浮き上がりを防止しつつの何食わぬ顔
 
 
 

当時のハマゾノ少年は名探偵コナンの読み過ぎで犯罪者側の行動は完コピしているのだ

 

山形屋から駐車場へいく
 
 
腹に挟んだアダルトビデオが体温を奪ってゆく 
 
 
当然ながら、アダルトビデオ側はまるで魂を与えられたかの様に人肌に温まってゆく 
 
 
 

少年は今すぐにでも帰りたいのだが、その日は市内のおばぁちゃん家に行き晩飯を御馳走になるという絶望的ロングコースだった
 

 

車内にコッソリとアダルトビデオを置いておばぁちゃん家に行こうと思ったがよく考えた
 
 

江戸川コナンはいつもそういった犯人の凡ミスを逃さない
 
 

僕はコナンにバレない様、アダルトビデオを腹に挟んだ状態でおばぁちゃん家に行き、晩飯を食べるという完全犯罪コースを選択した
 
 

久々に会うおばぁちゃんとの他愛のない会話
 
 

テレビを観ながら食べる晩飯
 
 

 
 
その間ずっとハマゾノ少年の腹に挟んであるのは初めて購入したアダルトビデオ
 
 

表向きではその腹部への意識を悟られぬ様、シャーロックホームズにも見破れぬ善人のフリ
 
 

だがしかし晩飯の味も感じない程に本当の意識は完全腹部
 
 

会話の内容など当然右から左のフリーウェイ
 

今すぐにこれを観たい
 
 

今すぐに動く画のアダルトを観たいのだ
 
 

おばぁちゃんとおじいちゃんに別れを告げ、車に乗り込んだ
 
 

ついに帰路だ
 
 

初ライブ直前のバンドマンの如く、楽しみと不安の入り混じった感情が押し寄せ手が震え出す
 
 
 
腹部に忍ばせたアダルトビデオは完全に人間の体温まで上昇し、まるで意思を持っているかの様だ 
 
 
「はやくオイラを観ておくれ」 
 
 
1000円のソイツが言うのだ 
 
 
 
待て 
 
 
もうすぐ 
 
 
 
もうすぐで観てやる 
 
 

帰路の車内で親が言った
 
 
 

「本屋に寄って帰ろうか」

 
 

ハマゾノ少年は完全犯罪者だ 
 
 
 
 
本屋に寄るなんてイレギュラーも乗り越なさなくてはならない 
 
 
 
続く
 
 
 

written by ハマゾノリョウジ

©2017 the Goodtime.r's Show