Coffee's Angels written by ハマゾノリョウジ


お店や電車など赤の他人と隣になることが多い場所で、その隣にいる人が1人でいるとしたら君達の会話は聞かれている
 

というか耳に入ってきてしまうのだ
 
 

聞きたくなくてもなんとなく1人でいると余程何かに集中していないと耳に入り込んでくるものだ
 

  
 

鹿児島市のとある珈琲店で珈琲を1人嗜む僕
 

すると隣の席にどこかヨソヨソしい雰囲気のカップルが1組座る
 

「奥行っていいよ」
 
「いや私こっちでいいよ」
 

僕はたまたま「上司と部下のイかれた不倫もの」の本を読みながら珈琲を嗜んでいたが、そのヨソヨソしい会話は小声ではあったが耳にガッチリ入り込んできた
  

指摘するのはまず、本に集中していない僕だ
 
 

集中していれば他の動き、声など気にならないものだと思うが、多分「珈琲店で本を読む」という行動にいつの日か憧れを抱き、実践してみたものの何か僕が僕じゃない気がしてかフワフワしているのだ
 
 

とは言え、本を読まなければどんどん本が溜まっていくので隙間を見つけては本を読まなければならない悲しい宿命なのだ
 
 
 
 

話が横道にズレたが、そのヨソヨソしいカップルらしき男女のヨソヨソしい会話を耳にして僕は2人がカップルでないと判断し話を聞いてみることにした
 

この時点で僕の意識は本から横にいるヨソヨソ男女へフルフォーカス
 

本は表向きのダミー
 

その様はまるで殺しを依頼されたヒットマン

 

「タバコ吸っていいからね」
 

男性が女性に言う
 
 

すると女性
 

「私、タバコ吸わないですよ」
 
 

カップルではないということが確信に変わったと同時にこの2人は初対面であることまで予測がついた
 
 

流行りのマッチングアプリとやらだろうか
 
 

女性は言う
 

「あたしね、ゲンガーが好きなんだ」
 

ポケモンだ

 

「なんか丸っこいものが好きで。照」
 

「照」がどうしても気になり思わずチラ見
 

女性は照れている
 

ゲンガーが好き、丸っこいものが好きという自分の本性を自ら暴露したことに照れているのだ
 

くそっ
 

うらやまし
 

その時だ
 
 

騒がしいオバ様3人組が僕の向かいに座った

 

声のボリュームレンジが明らかにブチ壊れてるレベルの大音量で3人が話し始める

 

当然、隣のヨソヨソしい男女の会話はストップ
 
 

意識はそのオバ様3人組へシフト

 

勿論、僕もオバ様3人組の会話へ鼓膜をシフト
 

「〇〇の電話番号!」

 

1人のオバ様がいきなりトチ狂ったかの様に、さっきの会話以上のボリュームMAXで急に声を張り上げた
 

「〇〇の電話番号が検索されました」
 
 

機械音声がこれまたドデカイボリュームで返す
 

siriだ
 
 
会話途中にも関わらず、オバ様の1人はsiri機能を使い始めた
 
 
もはやUSAにも勝る自由の国
 
 
おもむろにオバ様はその〇〇(車屋さん)へTEL

 

「あ、どうも、あのね、オタクに置いてあるベンツって、いくらくらいからあります?あーそうですか!はい!では後ほど伺いますので。はいはいー。」

 
 
 

世界一「ベンツ」と大声で言った女性をみた
 

その後もオバ様との席が近過ぎて音声が割れて聞き取れないくらいの大声で話す三銃士
 

隣のヨソヨソしい男女のコソコソ会話もその三銃士の前では無音同然

 

僕は目的を失った

 

ベンツを買う前に珈琲とは不景気とは思えないライフスタイル 
 
 
唯一アベノミクスとやらを肌で感じれているようだ
 
 

そのベンツオバ様の電話が終わってしばらくして「もう、帰ろうかな」
  

 

なんとなく理由は謎だがそんな気持ちになった
 
 

そして僕は会計して店を出た

 
 

今日も2組のドラマを見た
 

人それぞれ、色々な人生がある
 
 

あの男女がどうなったのか、オバ様はベンツを買ったのか
 
 

そんなことはもう今となっては興味もないが一つ言えることはあのオバ様3人組が一枚上手だったということだ

 
 

会話は基本周りに聞かれている
 

 

それを知っているオバ様たちはあえて自らのボリュームレンジを破壊し相手の鼓膜を撃ち破る勢いで且つどうでもいい内容の会話する
 
 

オバ様たちは自らを犠牲にして周囲の人間の会話を僕みたいなヒットマンに聞かれない様にしたのだ
 

あのヨソヨソしい男女はオバ様たちに助けられた
 
 

そして今日もあの三銃士はどこかで珈琲の嗜みながらヒットマンから人々を救っているに違いない
 

それが無意識だろうが意識的だろうがあの三銃士オバ様たちこそ令和に生けるチャーリーズエンジェルなのだ
 
 
written by ハマゾノリョウジ

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