少年よ、ズボンに挟め -前編- written by ハマゾノリョウジ


なんにでも「初めて」ということは存在する 
 
 
初めての1人旅行 
 
 
初めて好きになった人 
 
 
若い頃なんてのは「初めて」は日常的に発生しているので覚えているものもあるが大半の「初めて」は忘れ去られている 
 
 
しかしながら個人差はあるにせよ、やはり一世一代の「初めて」に関しては忘れ様にも忘れられないものとなり、思い出として姿を変え、語り継がれるもの、はたまた墓場まで持って行かれることになるものなど様々あるのだ 
 
 
 
 
僕は小学生だった頃からリサイクルショップを回るのが好きでCDや当時はビデオテープ(今で言うDVD)なんかを買い漁るのが趣味だった 
 
 
一般的な家庭で育った小学生なのでお金なんてあるはずもなく、厳密に言うと「買い漁る」というよりはお小遣いで買える日までの下見状態 
 
 
資金が溜まればどうにかしてそのリサイクルショップへ行き、DIGするというなんとも陰気臭い青春時代だ 
 
 
  
 
 
 

ある日、親と天文館へ行った 
 
 
「〇〇時に山形屋前に集合」というルールだけ決め、小学生の僕は1人で行動する 
 
 
行き先はもちろんリサイクルショップ「宝島」 
 
 
ここに足繁く通っていた僕はこの日、ある一世一代の大イベントを控えていた 
 
  
 

ハマゾノ(小学生)、AVを買う 
 
 
 
所狭しとCDやビデオテープが並べられた静かな店内は小学生の心を刺激するには十分過ぎるまさに「宝島」 
 

店内に入るとひとまずカモフラージュでCDを見る 
 
 
しかしハマゾノ少年の脳内はAVでパンパンに膨れ上がっている 
 
 
一つ懸念されることがある 
 
 
「ここのオヤジは小学生にアダルトビデオを売ってくれるのだろうか」 
 
 
 
頭の片隅にはあったが、当時のハマゾノ少年は「この日絶対に買う」「この日しかない」といった確固たる意志のもと地元喜入からはるばる天文館の地へ降り立っているのだ 
 
今更買わないで店を出るなど、もはや逆に違法 
 

でも断られたらどうする 
 
 
どう回避する 
 

 
「ですよねー」なんて照れ笑いして店を出るか 
 
 
否、僕には知らないオヤジにそんなおちゃらける程のコミュニケーション能力は備わっていない 
 
 
 
商品を持ったまま逃げるか 
 
 
否、そんなことしたら捕まった挙句、押収品がAVだったなんてもう生きていられない 
 
 
山形屋で待つ親に見せる顔はない 
 

 
どうする 
 
  
 
 

 
一瞬だ 
 
 
 
一瞬で選ぶ 
 
 

もはやそこには選ぶという余裕はない

 
値段さえ1000円であればこの際なんでもいい 
 
 

 
1000円のものが目に入った瞬間、それをあのレジまで持って行こう 
 
 

 
初めて「腹を括った」瞬間だ 
 
 
喜入の前之浜というど田舎で育ち、缶蹴りか色鬼に明け暮れる様などこにでもいる平凡な少年 
 
 
悪いことなんて親に買ってもらった自転車を改造するくらいのことしかしていなかった少年 
 
 
 
そんな少年が今、鹿児島一の繁華街「天文館」でアダルトビデオを購入しようとしているのだ 
 
 
初めての「青少年保護育成条例違反」 
 
 
しかしこの衝動、一体どこの誰が止めれよう 
 
 
僕はアダルトコーナーへ移動した 
  
 
 
「¥1000」の文字を見るや否や即手に取り、即レジへ 
 
 
 
精一杯の何食わぬ顔
 
 
 
初めての「精一杯の何食わぬ顔」 
 
 
レジのオヤジ  
 
 
「1000円です」 
 
 
 
汗でぐちゃぐちゃになった1000円を渡す 
 
  
 
「はい、どうも」 
 
 
あっさりとドライに小学生にアダルトビデオを売り飛ばすオヤジ

 
対してハマゾノ少年は右心室と左心室が入れ替わりそうな程の爆発的心拍数 
 

 
か、買ってしまった 
 
 
 
 
 
ハマゾノ少年は店の外でそのアダルトビデオを袋に入ったまま腹とズボンで挟み、やたらに姿勢のいい状態で親の待つ山形屋へと歩いた 
 

2回目の「精一杯の何食わぬ顔」で

  
続く 
 
 
 
written by ハマゾノリョウジ

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