大人の階段 written by ハマゾノリョウジ


僕が15〜6歳くらいの頃だっただろうか
 
 

地元の床屋から天文館の美容室に切り替えた
 
 

ライフスタイルの改革だ
 
 

きっかけは先輩から紹介されたとかそんな感じだった気がする
 
 

当時、髪切りに紹介というシステムすら何が怪しいなど勘繰り、同時にその田舎にない都会的な響きに新鮮さすら感じていた
 
 

美容室に入ると何ルクスあるのかわからないほどの明るい照明、キラキラした美容師さん、キラキラしたお客さん、が同時に田舎っぺの僕の眼に飛び込んできた
 
 
 

本来、喜入のど田舎で育った僕はショック状態に陥ってもおかしくないほどの文明の変化
 
 

しかしそこは一応慣れてる感じを出すってのがジェントルマン
 
 
 

ウォーキングデッドのエゼキエル曰く、
 
 
「出来るまで出来るフリを」だ

 
 

やせ我慢して平静を保っているが、内心はぐちゃぐちゃに緊張していた
 
 
 
どこに立っていていいのかすら謎の空間
 
 
 

白く塗られた店内の壁が明る過ぎる照明を吸収し、膨張して僕に圧をかけてくる
 
 
 
耐えろ
 
 

ただ髪を切るだけ
 
 

そう思ってた
 
 

ただ地元から天文館になっただけ
 
 

そう思ってたのに
 
 
 
なんなんだこの緊張感
 
 
 
この「女性しか来ないところにアンタ来てるわね」感
 
 
 

しかしここを紹介してくれた先輩こそ男
 
 

そこは自信を持っていいはずだ
 
 

なのに、なのになんなんだこの「女性しか来ないところにアンタ来てるわね」感
 
 
 

帰りたいが耐えろ
 
 

耐え抜いて、お前は経験値を己に加算し、ひとつ上の男になるのだ
 
 

名前を呼ばれ僕に付いたのは当時20代であろう女性スタイリストだ
 
 

15〜6の僕が20代の女性とタイマンで小一時間話すなんて未踏の地
 
 

ましてや頭を触られながら会話するという、レベルの高すぎる状況なのだ
 
 

怖い
 
 

都会は怖いぞ
 
 

15の少年の童貞心をくすぶるようなことをしてくれるな
 
 

払う3000円
 
 

15の少年からしたら高いが、なんともいえない満足感
 
 
そして高揚感 
 

 

僕は少し大人になった気がした
 
 
 

でもいまだに、初めての美容室にいくと「女性しか来ないところにアンタ来てるわね」感をしばしば感じるのだ
 
 
 
僕は一生大人になれないのかもしれない
 
  
 
そう思うと、大きな涙が頬を伝った
 
  written by ハマゾノリョウジ

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